マツダの成功事例に学ぶブランド戦略
こんにちは、ショウです。今回は意志とブランディングの話です。
週末、マツダに車の点検をお願いしに行ったら、雑談の中で「マツダは今後スライドドアをしばらく作らない」という話を聞きました。
マツダがミニバンを撤退するという話を随分前に聞いたことがありましたが、やはりその方向性は変わっていないのか…と、賞賛と寂しさを感じています。というのも、僕はまさにマツダのミニバンを所有しているからです。
子供が小さいうちはなるべく大きい車で、そしてスライドドアがとにかく便利。一度この感覚を覚えてしまうと、元には戻れないとさえ思います。
寂しさはさておき、今回の本題である賞賛の部分に触れましょう。
マツダのブランディングは、本当に素晴らしいんです。少し話をさかのぼります。
マツダの歴史
1967年、実用化不可能とまで言われたロータリーエンジンの開発・量産化に成功したマツダは、激しい自動車市場の中で一つの時代を築きました。しかしオイルショック以降、経営不振に陥りフォードの出資を受け入れることになります。フォード協力体制のもと、回復の兆しが見えたかのように見えましたが、今度はリーマンショックの影響でフォードが支援を続けられなくなってしまいました。
フォードの生産力あっての稼働だったのですが、その支援が無くなり窮地に立たされたマツダ。自動車業界では決して大きいと言えないマツダが、市場の中で勝ち抜くためにできること。それこそがブランディングだったのです。
めちゃくちゃ掻い摘みましたが、ここから少し具体的な話です。
ポジショニングとターゲッティング
いくら卓越した技術や精神力があるとはいえ、規模の大きさの中でできることは限られます。生き残るためには、独自性の追求が必須でした。そこでまず大切なのは、ビジョンやアイデンティティを明確にすること。自分達とは一体何者なのか、どういう方向を目指すべきか。そしてそのためにはどういった立ち位置で、誰に向けて戦術をしかけていくのか。
マツダは自分達が、世界自動車産業全体の2%のシェアであることを再確認します。そして、だからこそ100%に目を向けるのではなく、その2%へ全力を注ぐこと(2%戦略)を決めます。つまりポジションとターゲットを絞ったわけです。
その結果できたスローガンが『Be a Driver』。これは「走る歓び」や「自分の意志で生きていくこと」などを表現しています。つまり、車は安くて丈夫で便利な〝ただの移動手段〟ではなく、運転を通じて人生を楽しもうぜ、そんな素敵な乗り物なんだぜという考え方です。
車好きの集団が、本当に運転が好きな2%の人たちのために、最高の車を作る!と改めて表明したわけです。
新しいマツダの車に乗せてもらうとすごく良く分かるのですが、わざと狭く身体にフィットするような内装になっています。さらにマツダ特有のアクセルとブレーキは、まるで身体の一部のような感覚で操作できます(慣れない人には慣れません。なんせ2%戦略ですから!)。
乗ったことはありませんけど、モビルスーツとかエヴァンゲリオンのコクピットを想像させます。まさに運転の楽しさを追求した結果でしょうね。
ファミリーカーを見切ること
冒頭で、「スライドドアを辞め、家族層に人気のあるミニバンも撤退」と書きました。もちろんこれもブランドの考えに沿った動きそのものです。
スライドドアは専用の生産ラインを必要とし、どうしても効率が悪くなります。そして現在、ファミリーカーの市場争いはますます激しくなっており、便利さを追求した車がたくさん出ています。
つまり生産効率を下げてまで、無理にターゲット層を広げるのではなく、自分たちが満足させるべき層に力を入れる考えに至ったと予想できます。
もっとシンプルに言えば、「その先に『Be a Driver』はあるのか」。こう問いかければ進むべき道が見えてきます。
一見「ファミリーカーを切る」とだけ聞くと、大丈夫なのか?!と心配になりますが、戦略の一部だと理解できれば、撤退ではなく前進なのだとわかります。
スローガンのあるべき姿とはこのように、社員全員の(そしてファン達の)心の指標であること。そうすることで、みんなが一丸となって前進できるのです。
実際、売上は好調とお聞きしたので、素晴らしいブランディング!と感動しています。(そして僕は家族層…涙)
ちょっと余談、カープとマツダの赤、その想い
ところで、球団のカープとマツダに深いつながりがあるのはご存知でしょうか。というのも、マツダを造った松田一族はカープの筆頭株主で、今も球団のオーナーをされています。
最近のマツダ車は『ソウルレッド』と呼ばれるメタリックな赤を、メインカラーとして押し出しています。そしてカープの赤いヘルメット…実はこの赤もその『ソウルレッド』から来たものです。(若干明るさは違います)
マツダは戦時中の苦難や、幾多の障害をそのスピリットで乗り越えてきました。そしてその意志は、カープの中にも宿っています。負け続きだった球団が、今や上位をキープするチームへ。そして「カープ女子」なんて言葉も流行るほど、全国にファンを持つ人気球団に上り詰めました。
僕はこう言った逆転劇と強い想いが、無関係とは思えません。ブランディングの目的とは、想いを見える形にし、人の記憶に残すこと。そしてそれを支えるのは、やはり人の意志なのです。